仏教とはなんなのか。
手塚治虫のブッダ。葬式、法事、除夜の鐘。観光地のお寺。
何か折があるたびにそれを意識することがあったのだが、つどまたモヤの中に消えていってしまう問である。
キリスト教にイスラム教。中東問題にユダヤ教。イスラエルのIT基地。世界に関心が向かう時も、宗教について理解しなければモヤモヤとしたままだ。
そろそろ本当に調べてもいいのではないか。そう思って手にしたのが本書である。
本書は、仏教の思想シリーズとして、全12巻を通して仏教思想史を概観するものだ。
ユニークなのが全巻通じて3部構成になっており、それぞれ、1.仏教の専門家による概説、2.西洋哲学の専門家による考察、3.両者の対談という流れになっているところだ。
現代日本人の我々は、西洋思想をベースに論理的思考をするよう訓練されているため、視点としては仏教の専門家よりも西洋哲学の専門家の方により親しい。そのため、1章から読むよりも3章、2章と読んでいくほうが理解しやすいのである。(この読み方が本文中でも推奨されているのも面白い)
ともかく二千年の長い道のりである。
第1巻。そもそもの仏教の開祖であるブッダの思想に触れる。
読んでみての印象は、仏教が人間科学的と言ってもいいほど論理的な思想体系を持っていることにまず驚いた。インド人が論理的だという世評についてかねがね疑問を持っていたが、仏教にまつわるインド人たちの思想を見るとその疑問は氷解した。ブッダの到達した悟りとは、思索の果ての論理的帰結であるようだ。まるでスタートレックのバルカン人であるかのようだ。
この点が神話や直感や神をベースとしている他の宗教と比べて、極めて異質である。
わずかにもっているキリスト教やイスラム教、ユダヤ教についての知識と比べても、仏教の異質さは際立っている。果たしてこれを宗教と呼んでいいのか。
一方で、現代生活のそばにある仏教は、どこからどう見ても宗教である。
ここに至る過程が、これから巻を進めていくうちに明らかになっていくことであろう。
知恵と慈悲「ブッダ」―仏教の思想〈1〉 (角川文庫ソフィア)