栗本薫がこの世をさり、遺作として発売されたのがこの号だった。
中学の時からずっと読み続けていた私は、この本を手に取ることができなかった。
おそらく私以外の多くのファンもそうだったろう。
この一冊を読み終えることは、すなわち作品の終わりを意味していたからだ。
それから2年ほどたって、栗本薫の夫今岡清氏の元、「グイン・サーガ・ワールド」プロジェクトが始まった。新しい世代の作者の手によって物語が引き継がれることになったのだ。
いろいろな意見があったかもしれないが、私は純粋に嬉しかったし、何より安心した。物語が永遠に時を止めてしまうことがなくなったのだ。
発刊が決まってすぐに注文した。そこに書かれていたのは、今までその名を耳にしたことのない作者たちの描いた作品だったが、それでもそこにあるのはグイン・サーガだった。私にはそれで十分だった。
だが、何より衝撃的だったのは、今岡氏による手記である。グイン・サーガの単なる作者ではなく、人間であり今岡氏のパートナーである栗本薫の人生がそこには綴られていた。これまで私にとって栗本薫は、グイン・サーガのあとがきに現れるテンションのおかしな作者という印象だったのだが、この手記を読んだことで彼女は苦悩と愛と喜びと悲しみを抱えた実体として意識されるようになった。
果たして、小説を読む上で作者を意識する必要は必ずしもないかもしれない。だが、グイン・サーガの世界は紛れも無く、この女性が人生をかけて築き上げ、そして本当に息絶える最期の瞬間までその手で紡ぎ続けてきた物語なのである。
見知らぬ明日が発刊されて4年後、新しい物語はついに本伝として世に出された。すでにグイン・サーガ・ワールドで読んでいた内容だったが、私はKindle版を買い、そして手につけていなかったこの130巻をあわせて購入した。